- 障害がある人が備えておく防災グッズ(障害別)
2011年に発生した東日本大震災では、障害者手帳を取得している人の死亡率が全住民の約2倍に上り、災害発生時の障害者支援という課題が表面化しました。
これを受けて行政が対策に乗り出しましたが、5年後に発生した熊本地震でも、必要な支援を受けることができず孤立する障害者がたくさん出ており、行政の支援の限界が浮き彫りになりました。
今後も、行政による災害発生時の障害者対策は日進月歩で進歩するとは思いますが、どこまで行っても「公助」には限界があるので、自助と共助の底上げをしていくことが大切です。
防災の3助 | 内容 |
自助 | 個人が自分の身を守るために取り組む防災 |
共助 | 地域の人などが助け合って取り組む防災 |
公助 | 行政が取り組む防災 |
自助の基本となるのが、防災セットを備えることです。
この記事では、障害のある人が持ち出し用防災セットに入れておきたい防災グッズについて、障害別に解説します。
障害別の障害者用防災グッズ
持ち出し用防災セットに備える防災グッズについて、障害別に必要なものと全障害者に共通するものをリスト一覧にまとめました。
【障害者別】
障害別 | 防災グッズ |
視覚障害 | ・白杖 |
聴覚障害 | ・補聴器などの電池 ・筆談用具(ホワイトボードや筆記用具など) ・ライト |
肢体不自由 | ・車いす、歩行器、杖など ・床ずれ対策用グッズ ・排泄処理用具(簡易トイレ、紙おむつなど) |
精神障害 | ・基本的には一般的な持ち出し用防災セットで足りる |
知的障害 | ・あると落ち着くもの |
発達障害 | ・非常食・保存水(飲食できるもの) ・あると落ち着くもの ・アイマスクと耳栓 ・コミュニケーションの補助道具 |
高次脳機能障害 | ・記録の補助用具(ノート、筆記用具など) ・アイマスクと耳栓 |
内部障害・難病など | ・治療食、特別食 |
認知症 | ・症状に応じて補助器具、衛生用品、排泄処理用具など |
【共通】
共通 | 防災グッズ |
全障害者に必要なもの | ・持病の薬 ・お薬手帳 ・障害者手帳など ・ヘルプカード |
この記事に乗せている防災グッズは、一般的な持ち出し用防災セットに付け加えておくことを想定しています(一部重複しています。)。
持ち出し用防災セットの中身については、別の記事で詳しく解説しているので、よければ参考にしてください。
障害の内容や程度によっては、障害者自身が防災グッズを準備したり、災害発生時に持ち出したりできないことが多いものです。
そのため、この記事は、家族や支援者などが準備や持ち出しをサポートすることを前提として書いています。
全障害者に共通する防災グッズ
- 持病の薬
- お薬手帳
- 障害者手帳など
- ヘルプカード
まずは、障害の種類に関わらず、全ての障害者が備えておきたい防災グッズについて解説します。
持病の薬
平時から薬を服用している場合は、持ち出し用防災セットにも約1日分を入れておきます。
とんぷくが処方されている場合も同じです。
複数種類の薬を服用しているときは、1回分ごとに小分けにして薬ケースやパケット(封ができる小さめの袋)に入れておきましょう。
服用時に薬の種類や量を確認する手間が省けますし、飲み間違えのリスクを防ぐこともできます。
お薬手帳
薬局で渡されるお薬手帳には、処方薬の名称や量、薬の飲み方や副作用、アレルギーなどが記入されます。
本人が薬の名称や量などを把握していなくても、避難所の医師にお薬手帳を見せれば必要な情報が伝わり、適切な薬を処方してもらうことができます。
お薬手帳を普段から持ち歩く習慣がついている場合は、コピーを備えておきましょう。
障害者手帳など
障害者手帳、療育手帳、健康保険証、介護保険被保険者証などもコピーを備えておきます。
ヘルプカード
ヘルプカードというのは、周囲のサポートを受けるときに配慮を希望する内容を書いておくカードです。
主な記載内容は、以下のとおりです。
- 人定事項(名前、生年月日、住所)
- 手伝ってほしいこと
- 苦手なこと
- 家庭、職場、相談機関などの連絡先
- その他「安全な場所まで連れて行ってください。」、「私が無事でいることを家族に伝えてください。」などの要望事項
書いておく内容は、本人の障害の程度や内容、家族や職場の状況などによって異なるので、平時のうちに本人と話し合って書く内容を決めておきましょう。
視覚障害者が備える防災グッズ
- 白杖
- メガネやルーペ
- 時計(音声や触知式など)
- 点字板、メモ用録音機
- ラジオ
- 家族写真
「視覚障害=全盲」だと誤解している人がいますが、視覚障害というのは、視力の低下や視野の狭窄などによって日常生活に支障が出ている状態です。
障害の程度は様々であり、全く見えない人もいれば、補助器具を使えばある程度は見える人もいます。
白杖
視覚障害の人の防災グッズとして欠かせないのが、歩行時の安全確保や必要な情報の収集に役立つ白杖です。
災害発生時は道路の破損や水没などで平時より歩行が困難になることが多いので、平時には使用していなくても、視覚障害がある場合は備えておくことをおすすめします。
メガネやルーペ
平時にメガネやルーペを使用している場合は、持ち出し用防災セットにも防災グッズとして備えておきましょう。
普段使いのものが破損することもありますし、夜間や入浴時などに慌てて避難してかけ忘れるおそれもあるからです。
おすすめなのは、耐荷重が90kgと壊れにくいハズキルーペです。
レンズの大きさによってラージ・コンパクト・クールの3種類ありますが、防災用としては、最も小さく持ち運びやすいクールタイプが便利です。
また、災害発生時はスマホなどで情報収集する時間が長くなるので、ブルーライトを約55%カットできるカラーレンズを選んでおきたいところです。
時計(音声や触知式など)
視覚障害の程度によっては、周囲の明るさで時間帯を把握できないことがあるので、時計も備えておきます。
音声で時間を知らせたり、触って時間が分かったりする視覚障害者用の時計がおすすめです。
点字板、メモ用録音機
コミュニケーションツールとして、点字板やメモ用の録音機も備えておきたいところです。
特に、視覚障害と聴覚障害のある人の場合は、点字版を必ず防災セットに入れておきましょう。
聴覚障害がある場合、次の項目にある聴覚障碍者用の防災グッズも備えておく必要があります。
ラジオ
テレビやスマホなどから視覚情報を得られない場合は、聴覚情報が得られるラジオは必需品です。
持ち出し用防災セットは容量が限られているので、ワイドFMや感度だけでなく、大きさや重さも考えて選ぶことが大切です。
視覚障害の人は、周囲の状況を目で見て確認することが難しいので、情報が不足しがちです。
言葉(音声)で情報を伝えることが大切です。
家族写真
視覚障害の人は、避難所などを歩き回って家族や知り合いを見つけるのが難しいものです。
家族写真を入れておけば、災害発生時に周囲の人に渡して家族を探してもらうことができます。
聴覚障害
- 補聴器などの電池
- 筆談用具(ホワイトボードや筆記用具など)
- ライト
補聴器などの電池
補聴器や人工内耳を使用している場合、予備の電池を備えておきます。
補聴器などの補助器具の予備も入れておきたいところですが、高額なので要検討です。
筆談用具
防災無線の情報など緊急に情報を伝達する必要が生じた場合に備え、筆記用具やノートなどの筆談用具も必要です。
おすすめなのは、ヌーボードです。
持ち歩きできるホワイトボードのようなもので、必要な情報を書いて伝え、必要がなくなったら消して再利用できるので、避難生活でも役立ちます。
企業や官公庁において聴覚障害者用のグッズとして広まっており、災害時に活用される機会も増えてきています。
とある行政機関で防災講義をしたときに使わせてもらいましたが、手軽に持ち歩けて場所を選ばず筆談ができるので、非常に便利だと感じました。
「聴覚障害の人は誰でも手話ができる」というのは誤解です。
聴覚障害の人でも手話が分からないこともあるので、筆談や身振り手振り、絵や図を用いるなど視覚に訴えることが大切です。
まずは相手の視界に入り、伝わりやすい方法を模索してください。
ライト
一般的な持ち出し用防災セットにも備えますが、夜間に避難する場合にはライトも必要です。
聴覚に障害があると視覚に頼る度合いが高くなりますし、視界が悪いと健常者以上に不安を感じやすいので、ライトは忘れずに備えておきましょう。
肢体不自由
- 車いす、歩行器、杖など
- 床ずれ対策用グッズ
- 排泄処理用具(簡易トイレ、紙おむつなど)
車いす、歩行器、杖など
障害の程度に応じて、車いす、歩行器、杖などを備えます。
杖については、平時に使っていなかったとしても備えておくことをおすすめします。
災害発生時には、精神的なショックで平時にできてことができなくなることがあり、被災後に歩けなくなる人が多いからです。
杖をついてでも歩くことができれば気晴らしになりますし、健康や身体機能の維持にも重要な意味を持つので、念のために折りたたみ式の杖を備えておきましょう。
床ずれ対策用グッズ
肢体不自由で寝たきりの場合、床ずれを防ぐためのグッズも必要です。
床ずれというのは、寝たきりの状態によって皮膚の血流が滞り、おしり、腰回り、かかとやひざなどに生じる皮膚の赤みやただれのことです。
排泄処理用具
平時から紙おむつなどを使用している場合は、防災セットにも同じものを備えておきます。
平時にはトイレで用を足せていても、災害発生時には精神的ショックなどの影響で失禁してしまう高齢者が多いので、普段は紙おむつなどをしていなくても、念のために備えておくと安心です。
精神障害
精神障害がある場合、障害者に共通の防災グッズを備えておけば、他に付け足すものは特にありません。
精神障害の人への支援は、落ち着いた態度で接して不安を和らげることが第一歩です。
状況を具体的かつ分かりやすく伝えること、一つずつゆっくり伝えること、大声や指示的な口調は控えることが大切です。
知的障害
- あると落ち着くもの
あると落ち着くもの
知的障害があると、災害という異常事態をうまく消化できず、強いパニック状態になることがあります。
おもちゃ、ゲーム、イヤフォン、ぬいぐるみなど何でもかまわないので、平時から「あると落ち着くもの」を備えておくと、災害発生時のパニックを最小限に抑えることができます。
知的障害の人は、複雑な会話や抽象的な内容を理解するのが難しいので、具体的な内容を簡単に伝える工夫が必要です。
身振り手振り、絵や図、写真、文字などの視覚情報は伝わりやすいので、本人の能力に応じて伝え方を考えましょう。
発達障害
- 非常食・保存水(飲食できるもの)
- あると落ち着くもの
- アイマスクと耳栓
- コミュニケーションの補助道具
非常食・保存水(飲食できるもの)
発達障害の症状の一つとして極端な偏食があります。
備えておいた非常食や保存水が食べられない可能性があるので、あらかじめ試食・試飲して問題がないことを確認の上で備える必要があります。
あると落ち着くもの
発達障害がある人は、急な環境の変化に適応するのが苦手なことが多く、災害発生時には健常者以上に強いパニックに陥ってしまいます。
そんなときに、普段から安定剤の役目を果たすおもちゃなどがあれば、パニックを最小限に抑えることができます。
アイマスクと耳栓
発達障害がある人の中には、感覚が過敏で音や光に過剰反応してしまう人がいます。
感覚過敏は私たちが思っている以上に苦痛が大きいので、できるだけ刺激を少なくするためにアイマスクと耳栓を備えておきます。
アイマスクは放熱性に優れたものがおすすめです。
初めて装着するときは拒否を示すことがあるので、平時のうちに慣れてもらっておくことが大切です。
コミュニケーションの補助器具
情報を整理するのが苦手で、コミュニケーションが苦手な人もいるので、具体的に一つずつ伝えることが大切です。
また、言葉を使った意思疎通が難しいときは、絵や写真を見せたり、筆談したりするとうまくいくことがあるので、筆記用具やノートなどを準備しておくと良いでしょう。
聴覚障害の項でも書きましたが、手軽に持ち運べる小型ホワイトボード「ヌーボード」はおすすめです。
高次脳機能障害
- 記録の補助用具
- アイマスクと耳栓
記録の補助用具
高次脳機能障害の人は、交通事故や頭部のケガなどで脳が損傷された影響により、言語、記憶、思考、空間などの高次な機能が障害されています。
そのため、何かを伝えるときは、ポイントを絞って具体的に、はっきりとした口調で伝えることが大切です。
情報を見落としたり忘れたりすることがあるので、重要な情報はメモに書いて渡す必要があります。
また、絵、図、写真など視覚的な情報は理解できることがあるので、筆記用具やノートなどを準備しておきましょう。
おすすめは、持ち運びが便利で何度も書く・消すができるヌーボードです。
アイマスクと耳栓
高次脳機能障害の人の中には、怒りやすくなる人が少なからずいます。
避難所では、平時とは異なる周囲の刺激にイライラしてしまうことがあるので、アイマスクや耳栓も必要です。
内部障害・難病など
- 治療食、特別食
治療食、特別食
内部障害や難病などは外見から判断することが難しく、第三者が適切な支援を行うのは至難の業です。
また、災害発生時には治療などに必要なものが入手できないおそれもあるので、少なくとも、平時から使用している治療食や特別食は防災セットに備えておきましょう。
認知症
- 症状に応じて補助器具、衛生用品、排泄処理用具など
症状に応じて補助器具、衛生用品、排泄処理用具など
認知症の主な症状は、以下のとおりです。
中核症状 | ・記憶障害:新しいことを覚えることができない ・見当識障害:時間、場所、人物の顔が分からない ・判断力・理解力の障害:論理的思考ができず、理解も遅れる ・実行機能障害:物事を順序だって進められない |
周辺症状 | 妄想、失禁、不潔行為、幻覚、異食、不安、焦燥、睡眠障害、抑うつ、介護拒否、暴言・暴力など |
認知症の症状の内容や程度は一人ひとり異なるので、本人に応じた防災グッズを備える必要があります。
認知症の人用の防災セットというのは販売されていないので、市販のものに必要な防災グッズを付け足すことになります。
まとめ
障害のある人は「障害者」とひとくくりにされてしまいがちですが、障害の内容も程度も一人ひとり異なります。
そのため、個別の症状に応じた対応を徹底するのが理想ですが、災害現場では一人ひとりに十分なサポートをするだけのマンパワーが得られないことが多いので、自助の第一歩として障害に応じた防災グッズを備えることが大切です。
障害者自身が準備するのが難しいことも多いので、家族や支援者がサポートしてあげる必要があります。
平時から、障害の内容・程度やサポートに対する希望などを聞き取っておくと、ニーズに合った防災グッズを備えて起きやすく、いざというときにも本人の希望に沿ったサポートができるはずです。