- 災害図上訓練DIGとはどのような防災ゲームか
- DIGのやり方
防災訓練といえば、学校や勤務先で行うシナリオに沿った受動的な訓練を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、近年は、シェイクアウトや防災ゲームなど、参加者が能動的に参加する形式の訓練が増えてきています。
災害図上訓練DIGもその一つで、訓練したことが実際に災害が発生したときに役立つことから、取り入れる自治体や企業などが増加しています。
この記事では、災害図上訓練DIGとはどのような防災訓練(防災ゲーム)か、訓練の特徴と効果、事前準備と進め方について解説します。
災害図上訓練DIGとは
災害図上訓練とは、災害発生時に想定されるリスクなどについて、参加者が自ら地図上(図上)に書き込んで災害対策を検討する防災訓練です。
一般的には、DIG(Disaster Imagination Game、直訳は災害想像ゲーム)と呼ばれます。
英語のDIGには「掘る」や「理解する」という意味があり、「防災意識を掘り起こす」「災害を理解する」という意味も込められています。
災害図上訓練(DIG)では、参加者が地図を囲んで未経験の大災害をイメージし、自宅やその周辺地域に存在するリスクや課題を書き込みます。
そして、書き込みを踏まえて、避難経路や避難場所の確認、災害への備え、災害への対応などの検討を行います。
災害図上訓練DIGの特徴
災害図上訓練DIGは、他の防災訓練にはない特徴がいくつもあります。
防災ゲームである
災害図上訓練(DIG)は、防災ゲームの一つとされています。
ゲームという性質上、参加者が楽しむことができるよう工夫されており、参加者全員が議論を楽しみながら防災に対する意識や意欲を高めることができます。
その他の防災ゲームについては、別の記事で詳しく解説しています。
参加者が能動的に参加する
従来型の防災訓練は、主催者が決めたシナリオに沿って訓練が進行します。
そのため、参加者の関わり方は受動的で、災害発生時における想定外の事態に対応する力が養われにくいという課題がありました。
災害図上訓練(DIG)は、大災害という設定こそ与えられますが、訓練中は参加者全員が自分の頭で災害発生時に何をすべきか考えて発言し、他人と議論し、地図上に記入することが求められます。
そのため、当事者意識や他の参加者との連帯意識を持ちやすく、シナリオ通りの訓練や一人では思いつかなかった新しい発見をすることもあります。
視覚的にリスクや課題を認識できる
災害図上訓練(DIG)は、住んでいる地域の地図に書き込みながら訓練を行います。
地図に書き込むという方法により、災害をイメージしやすく、身近にあるリスクや課題を視覚的かつ具体的に認識できるようになります。
自分の周りで起こりうる災害の危険を目で見える形で認識できるので、具体的な防災対策を検討し、実際に取り組みやすくなるのです。
また、訓練で作成した地図は手作りのハザードマップとして使用することができますし、その地図を使って他の参加者と災害時の対応や対策を検討することで情報共有もできます。
柔軟かつ手軽に実施できる
災害図上訓練(DIG)は、大災害をイメージすることで行う防災訓練です。
特定のルールに縛られることなく、参加者のレベル・立場・関心などに応じて柔軟にやり方を変えることが可能です。
専用の機材を必要とせずワークショップ形式で実施できる手軽さから、自治体や企業などでも実施される機会が増えています。
災害図上訓練DIGの効果
災害図上訓練(DIG)の主な効果は、以下のとおりです。
- 防災に対する意識や意欲が向上する
- 住んでいる地域を防災の観点で見たときのリスクや課題を理解できる
- 災害への具体的な備えを実践しやすくなる
- 災害発生時の救援救護活動のイメージができる
また、災害図上訓練(DIG)の参加者は基本的に防災に対する意識や意欲が高く、そうした参加者と一緒に議論を交わすことで、地域の防災ネットワークを築くきっかけとなることもあります。
災害発生時には、周囲の人と協力して避難行動などを行うことが重要ですが、DIGを通して地域住民との関係性を築くきっかけになる可能性があるのです。
災害図上訓練DIGの準備
限られた時間の中で効果的に災害図上訓練(DIG)を実施するには、主催者による事前準備が大切です。
テーマの設定
テーマ設定は、災害図上訓練(DIG)の事前準備で一番大切なことです。
実施地域の特性や発生しやすい災害、参加者の立場・レベル・関心などを把握した上で、どのような災害を設定し、どこまでの検討を行うかを決めます。
また、災害発生時の状況や被害想定を細かく設定しておく必要もあります。
例えば、災害が発生した季節、日時、建物や道路の被害、火災や津波などの有無、公共交通機関の状況、ライフラインの状況、家族の不詳などを設定します。
参加者の見積もり
災害図上訓練(DIG)は、一定人数以上の参加者が必要です。
あらかじめ参加人数を見積もり、それに応じた準備を勧めなければなりません。
また、主催者側も企画者(進行・講評役)や補助者が必要であり、その人員確保も欠かせません。
会場の手配・参加者募集
会場手配や参加者募集も余裕を持って行わなければなりません。
多くの防災訓練は、申込後にキャンセルする人が一定数いるので、それを見込んで参加者募集をしなければなりません。
地図・小道具の準備
災害図上訓練で使用する道具は、以下のとおりです。
- 地域の地図:2畳分程度
- 透明シート:油性ペンで書き込むために、地図上に敷く
- 油性ペン:透明シートへの書き込み用(内容によって使い分けられるよう太さや色が違うペンを各グループに10本程度準備)
- ベンジン、ティッシュペーパー:油性ペンの書き込みの修正用
- テープ類:地図上に透明シートを貼り付ける
- 付箋:地図上に表示や意見を貼り付ける(サイズや色が異なる付箋を数種類準備)
- カラーシール:避難場所や防災拠点などの地点情報を表示するため(サイズや色が異なるドットシールを数種類準備)
- 名札:参加者同士で名前を呼び合えるようにする
配布資料の作成・印刷
災害図上訓練(DIG)の説明文書、訓練の設定、アンケートなど、当日配布する資料を作成し、印刷します。
スタッフの役割分担確認
進行役と補助者などの役割分担を決め、実施日が近くなったら念のため確認します。
災害図上訓練DIGの実施
災害図上訓練(DIG)の実施手順を確認していきます。
オリエンテーション
オリエンテーションで行うことは、以下のとおりです。
- 災害図上訓練(DIG)の概要説明
- 訓練の目的と進行ルールの説明
- グループ分け
- 各グループでアイスブレーキング
- 災害のイメージを共有
災害図上訓練(DIG)未経験者のために訓練の概要、目的、進行ルールを分かりやすく説明します。
その後、グループ分けを行い、各グループごとに名札作りや自己紹介を含むアイスブレーキングを行い、参加者の緊張をほぐします。
アイスブレーキングに決まった方法はなく、進行役が参加者の年齢・性別・立場・緊張度などを踏まえて臨機応変に対応するのが一般的です。
その後、参加者全員で過去の災害に関する写真や映像を確認し、災害のイメージづくりを行います。
訓練
実際の災害図上訓練(DIG)は、人的・物的防災資源の書き込み、想定される被害の書き込み、実践イメージトレーニングというステップで行われます。
基本地図の作成と人的・物的防災資源の書き込みは必ず行いますが、その後の2つのステップは、参加者の立場やレベルなどに応じて実施するかどうかを決めます。
基本地図の作成と人的・物的防災資源の書き込み(初級編)
出典:内閣府
地図上に自然条件、まちの構造、人的・物的防災資源を書き込み、防災の観点から参加者同士で議論しながら周辺地域の状況、防災上の強みや災害のリスクの高さなどを確認します。
例えば、市街地、海岸線、河川、主要道路、鉄道、公園や広場、水路、市区町村役場、消防署、学校、病院などを地図上に分かりやすく書き込みます。
また、倒壊のおそれがある建物・ブロック塀・石垣、延焼火災のおそれがある木造住宅密集地域、水没するおそれがある道路や地域など、災害発生時のリスクが高い場所も書き入れます。
訓練で使用するのは現在の地図ですが、古地図など過去の地図があれば、当時の自然条件や周辺環境などを記載することで地盤の状態などを把握することも可能になります。
このように自分が住んでいる地域の状況を確認することで、その後の議論に意欲的かつ積極的に参加しやすくなります。
続けて中級編を行う場合、書き込みが一通り終わった段階で地図上に新しい透明シートをかぶせます。
想定される被害の書き込み(中級編)
出典:内閣府
初級編で書き込んだ地図を見ながら、災害発生時に想定される被害について参加者で議論し、新しい透明シートに議論の結果を書き込みます。
参加者で議論するときは、地域のハザードマップや被害想定結果など公表されているデータを活用し、できるだけ細かく具体的に情報を書き込むことが大切です。
また、訓練で使用されるのは住んでいる地域の地図であり、日常生活を送る中で仕入れた情報も積極的に盛り込みます。
例えば、「ここは大量の自転車が無断駐輪されており、災害発生時は自転車が倒れて通りにくくなるかもしれない。」、「この住宅の住民は高齢者ばかりで、自力避難が難しい人が多い。」などの情報を書き込んでいきます。
こうした過程により、地域住民一人ひとりが持つ防災関連情報が他の参加者と共有されるのです。
実践イメージトレーニング(応用編)
出典:内閣府
初級編と中級編で確認した周辺地域の状況や災害発生時に想定される被害を踏まえ、災害発生時の具体的な避難行動や救助救護活動などのイメージトレーニングを行う段階です。
進行役が、事前準備で設定したテーマを参加者に示し、参加者は、設定を踏まえて自分やその周辺でどのような被害が発生するかをイメージするとともに、イメージした被害への対応を検討します。
例えば、「避難経路が液状化現象で通行できなくなったが、どのように対応するか。」、「倒壊した家屋の下から被災者の声が聞こえるが、どう対応するか。」などの設定について、グループ内で議論して対策を考えます。
対策の実行可能性を踏まえて検討するとともに、事後対応の限界や地域防災力向上の必要性の高さについても認識することが求められます。
参加者のレベルが高い場合は、災害発生直後だけでなく、災害発生から時間が経過した後(通電火災が発生した場合など)をイメージして議論することもあります。
応用編は、進行役のファシリテート能力や参加者の防災力が求められるパートですが、その分、実際に被災した場合に役立つトレーニングとなっています。
訓練後の情報共有
グループでの訓練が終わった後は、各グループの代表者が訓練の概要を説明し、参加者全員で共有する機会が設けられるのが一般的です。
まとめ
近年は、災害時に役立つ知識やノウハウを身につけるために、参加者が能動的に参加する防災訓練や防災ゲームが増えてきています。
災害図上訓練DIGは、住んでいる地域の地図を使いながら、災害発生時に想定されるリスクや対応を参加者自信が考える防災ゲームで、高い効果があるとされています。
防災関連のイベントで実施されることもあるので、一度は参加してみてください。
【参考】