- 災害援護資金とは何か
- 災害援護資金貸付制度の申請方法
災害の影響で負傷して就労が困難になったり、住宅や家財に被害を受けたりして被災前の生活の維持が困難になることがあります。
こうした場合に、生活再建のために使える資金を借りることができる制度が、災害援護資金貸付制度です。
この記事では、災害援護資金の借入れを行う要件、貸付金額・利率・償還期間、借入れの申請方法、償還期間の延長と償還免除について解説します。
災害援護資金とは
災害援護資金とは、災害救助法が適用される災害で被災した世帯に、生活の再建に必要な資金を低金利で貸し付ける被害者支援制度です。
災害援護資金の根拠法令
災害援護資金は、災害弔慰金の支給等に関する法律に規定されています。
市町村は、条例の定めるところにより、その区域内において災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)による救助の行われる災害その他の政令で定める災害により次に掲げる被害を受けた世帯で政令の定めるところにより算定したこれに属する者の所得の合計額が政令で定める額に満たないものの世帯主に対し、生活の立て直しに資するため、災害援護資金の貸付けを行うことができる。
一 療養に要する期間がおおむね一月以上である世帯主の負傷
二 政令で定める相当程度の住居又は家財の損害
引用:災害弔慰金の支給等に関する法律第10条第1以降
災害救助法
災害救助法とは、災害発生直後に行う応急的な生活の援助や救済などについて規定した法律です。
災害救助法による救助が行われる(災害救助法が適用される)災害とは、以下のような基準を満たす災害のことです。
- 住家滅失世帯数(大きな被害を受けた世帯数)が一定基準以上
- 僻地(へきち)で災害が発生した場合など、救護が困難な事情がある
- 多数の人の生命または身体に危害を受けた、または、受けるおそれが生じた
過去に災害救助法が適用された災害については、内閣府の「災害救助法:防災情報のページ」で確認することができます。
災害援護資金貸付制度を利用する要件
災害援護資金貸付制度を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
都道府県内で災害救助法が適用された市町村が1以上ある災害
ある災害によって住家滅失世帯数が一定基準以上、救護困難な事情がある、生命または身体に危害を受けた人が多数という要件が満たされた場合に災害救助法が適用されます。
災害救助法が適用されたか否かは、都道府県から通知(公示)されます。
通常は、災害発生当日に災害救助法の適用が公示され、当日の公示がない場合でも1週間以内には公示されます。
その災害により負傷又は住居、家財に被害を受けた者
災害援護資金貸付金の申請ができるのは、「災害によって負傷した人」または「災害によって住居や家財に被害を受けた人」です。
負傷や被害については、以下のとおり基準が設けられています。
負傷・被害 | 基準 |
負傷 | 被害を受けた家の世帯主が、1ヶ月以上の負傷をした場合 |
被害の程度 | 住居:半壊、全壊・滅失、流失の場合 家財:3分の1以上の損害があった場合 |
所得制限
災害援護資金貸付制度の利用には所得制限が設けられています。
出典:災害援護資金の概要|厚生労働省
市町村民税における「前年度」の総所得金額が上記金額を超える場合は、対象外です。
注意したいのは、個人ではなく世帯の総所得金額が対象となること、世帯の人数によって制限額が変動することです。
また、世帯の住居が滅失した場合には、一律に1270万円が所得上限額となっています。
東日本大震災の特例
東日本大震災の被災者については、特例として、前年度の総所得金額だけでなく、平成23年度の総所得金額を対象とすることも認められています。
災害援護資金貸付制度の貸付金額・利率・償還期間
災害援護資金貸付制度は、支給ではなく貸し付けなので、貸付金額や利率を確認しておく必要があります。
貸付金額
災害援護資金の貸付限度額は、350万円です。
災害により受けた被害の状況に応じて貸付限度額が定められており、複数の要件を満たす場合に合計で350万円まで借りることができます。
①世帯主が1ヶ月以上の負傷 | 150万円 | |
②家財の1/3以上の損害 | 150万円 | |
住居 | ③半壊 | 170万円 |
④全壊 | 250万円 (350万円) | |
⑤滅失・流失 | 350万円 |
複数の被害がある場合の貸付限度額は、以下のとおりです。
①+② | 250万円 |
①+③ | 270万円(350万円) |
①+④ | 350万円 |
①+⑤ | 350万円 |
※()内は、被災した住居を立て直すときに旧居の残存部分を取り壊す場合など特別な事情がある場合
なお、貸付資金の3分の2国、3分の1は都道府県が負担します。
利率
災害援護資金の利率は、年3%です。
ただし、3年(特例の場合は5年)の据置期間が設定されており、期間中は無利子となります。
償還期間(返済)
災害援護資金の償還期間は、据置期間を含めて10年間です。
償還開始の3ヶ月前に償還案内と納付書が郵送され、償還内容を確認できるようになっています。
償還方法(返済)
年賦または半年賦です。
申請した市区町村役場で手続すれば、償還方法の変更や繰り上げ返済も認められます。
東日本大震災の特例
東日本大震災では、以下のとおり特例措置がとられています。
利率 | ・連帯保証人あり:無利子 ・連帯保証人なし:年1.5% |
据置期間 | 6年または8年(自己所有の住居が全壊した場合など) |
償還期間 | 13年 |
災害援護資金貸付制度の申請方法
災害援護資金を借入れるための申請方法について、確認していきます。
申請先
被災当時に住んでいた地域の市区町村役場です。
被災後に転居した場合でも、被災当時に住んでいた地域で申請します。
申請期限
原則として、被災した日の翌月から3ヶ月以内です。
ただし、申請期間が延長されることもあります。
必要書類
災害援護資金借入れの申請には、以下の書類を揃える必要があります。
- 災害援護資金借入申込書(申請先窓口またはウェブサイトから入手)
- 申請者の身分証明書(運転免許証、パスポート、住民基本台帳カードなど)
- 住民票(本籍、続柄の記載があるもの)のコピー(被災当時に住んでいた地域から転居した場合)
- 外国人の場合は外国人登録原票記載事項証明書(同条)
- 申請者の世帯全員分の所得証明書(被災した年の前年度のもの)
- 申請者の所得証明書(申請年度のもの)
- 滞納なし証明または完納証明書
- 罹災証明書(住宅の被害の程度を証明するため)
- 契約書・見積書のコピーなど()
- 医師の診断書(1ヶ月以上の負傷であることを証明するため)
- 罹災証明書:災害によって被害を受けた住居などの「被害の程度」を証明する書類
- 滞納なし証明:住民税などを滞納していないことを証明する書類
- 完納証明書:住民税などの滞納を完納したことを証明する書類
罹災証明書については、別の記事で詳しく解説しています。
申請から貸付けまでにかかる期間
一般的には、1ヶ月程度です。
ただし、災害の規模や被害状況、申請先の規模やマンパワーなどによって異なるので、申請時におおよその期間を確認しておくことが大切です。
貸付決定
災害援護資金の貸付が決定した場合、「貸付決定通知書」が送付されてきます。
通知書の内容を確認し、印鑑証明書、世帯主名義の預貯金通帳のコピー、災害援護資金借用書を持って申請先の市区町村役場へ行くと手続きが終了し、後日、指定した口座に入金されます。
償還期間の延長と償還免除
最後に、償還期間の延長と償還期間について触れておきます。
償還期間の延長
災害援護資金貸付制度には据置期間が設けられていますが、その期間を経過しても、経済的にひっ迫した状態が継続している家庭は少なくありません。
そのため、特例として、償還期間の延長措置がとられることがあります。
例えば、阪神・淡路大震災では償還期間が4度にわたって延長されており、東日本大震災については3年間の延長が決定しています。
償還免除
特例的な措置として、以下の要件をいずれも満たす場合、災害援護資金の償還が免除されます。
- 借受人が死亡して相続人もいない、または、借受人の相続人が償還できない、あるいは、借受人が精神または身体に著しい障害を受けたため償還できなくなったとき
- 連帯保証人または連帯保証人の相続人が、未償還額を返済することができないとき
災害援護資金の償還免除の申請には、免除要件に当てはまることを証明する資料を提出する必要があります。
例えば、借受人が死亡した場合には、以下のような書類の提出を求められます。
借受人やその相続人に関する書類 | 【免除理由を証明する書類】 ・借受人の死亡やその相続人が分かる戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍など)など ・相続人届出書(相続人がいる場合のみ) ・相続放棄を証する書類(相続放棄した場合のみ) |
【相続人が償還できないことを証する書類】 ・相続人の最新の市・県民税課税証明書 ・相続人名義の住宅ローンの借用書、領収書、返済計画書 ・免責決定通知書(破産している場合のみ) ・保護適用証明書(生活保護を受けている場合のみ) | |
連帯保証人に関する書類 | 【連帯保証人が償還できないことを証する書類】 ・連帯保証人の最新の市・県民税課税証明書 ・連帯保証人名義の住宅ローンの借用書、領収書、返済計画書 ・免責決定通知書(破産している場合のみ) ・保護適用証明書(生活保護を受けている場合のみ) ・各種障害者手帳(借入れ後に重度の障害者になった場合のみ) |
まとめ
災害援護資金貸付制度は、災害で被災した世帯が生活を再建するのに必要な資金を低金利で貸し付ける制度です。
貸し付けを受けられる金額は350万円までですが、他の支援制度と合わせて生活再建に役立てることができます。
【参考】