- 避難情報の種類
- 避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示の違い
災害が発生したときに、避難するかどうかの判断に必要な情報を知っていますか。
近年、大地震や異常気象による災害が相次いでおり、日本政府や企業の防災意識は高まってきます。
例えば、BCP(Business continuity planning、事業継続計画)を策定する企業が増え、シェイクアウトなどの新しい避難訓練が全国的に取り入れられるようになっています。
一方で、個人の防災意識はそれほど高くなっていません。
災害発生時にどの情報に基づいて避難の要否を判断するかについても、把握していない、家族と共有できていないという人が少なくありません。
そこで、この記事では、災害発生時に各自治体から発令される避難情報の種類(避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急))と、避難開始の基準について解説します。
避難情報とは(避難情報の種類)
避難情報とは、災害が発生したときに、災害対策基本法に基づいて自治体が発令する情報です。
各自治体は、災害が発生すると、災害の危険度に応じて以下の3つの避難情報を発令します。
- 避難準備・高齢者等避難開始
- 避難勧告
- 避難指示(緊急)
以下、各避難情報の内容と違いについて解説していきます。
避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示の内容と違い
自治体から発令される3種類の避難情報は、災害の発生可能性や発生までの猶予期間などが異なります。
3つの避難情報と、避難情報が発令されたときにとるべき行動をまとめました。
避難情報 | 発令時にとるべき行動 |
避難準備・高齢者等避難開始 | ・高齢者等:避難行動を開始 ・それ以外:避難準備を開始 |
避難勧告 | ・高齢者等:早急に支援者と一緒に避難行動を開始 ・それ以外:避難行動を開始 |
避難指示(緊急) | ・支援者と一緒に避難するか、自宅に留まるか検討 ・それ以外:避難するか、自宅に留まるか検討 |
避難準備・高齢者等避難開始
避難準備・高齢者等避難開始とは、人的被害を生じさせる災害が発生するおそれがある場合に、各自治体(市区村長)が発令する避難情報です。
根拠法令は、災害対策基本法第56条です。
市町村長は、法令の規定により災害に関する予報若しくは警報の通知を受けたとき、自ら災害に関する予報若しくは警報を知つたとき、法令の規定により自ら災害に関する警報をしたとき、又は前条の通知を受けたときは、地域防災計画の定めるところにより、当該予報若しくは警報又は通知に係る事項を関係機関及び住民その他関係のある公私の団体に伝達しなければならない。この場合において、必要があると認めるときは、市町村長は、住民その他関係のある公私の団体に対し、予想される災害の事態及びこれに対してとるべき避難のための立退きの準備その他の措置について、必要な通知又は警告をすることができる。
引用:災害対策基本法第56条
避難準備・高齢者等避難開始は、①高齢者など避難に時間を要する人には「避難開始」を促し、②それ以外の人には「気象情報に注意し、いつでも避難できるように準備を始めること」を促す目的で発令されます。
避難準備・高齢者等避難開始は、以前は「避難準備情報」という名称で運用されていましたが、専門家からは「情報の意味が正確に伝わらない」という指摘を受けていました。
改善されないまま運用されていましたが、2016年に台風が上陸した際、情報の意味を誤解した人が犠牲になったことをきっかけとして、改善の動きが強まります。
結果、同年12月に「避難準備・高齢者等避難開始」という名称に変更されて現在に至ります。
避難準備・高齢者等避難開始が発表された場合の行動
避難準備・高齢者等避難準備が発表された場合、「避難に時間を要する人」と「一般人」では、とるべき行動が異なります。
避難に時間を要する人(高齢者など)
すぐ避難準備を整えて、支援する人と一緒に避難を開始します。
避難に時間を要する人とは、高齢者だけでなく、避難に時間がかかる人、自力避難が困難な人、適切な避難ができない人、気象情報や各自治体の指示を理解できない人などです。
具体的には、以下のような人が「避難に時間を要する人」に当てはまります。
- 高齢者
- 障害(知的障害、発達障害、精神障害など)がある大人
- 障害(知的障害、発達障害、精神障害など)がある子ども
- 乳児期の赤ちゃん
- 幼児期の子ども
- 学童期の子ども
- 妊娠中の人
- 出産直後の人
- ケガをしている人
- 病気の人
- 子どもの保護者
- 障害者の保護者
- 病人やけが人の看護者
- 日本語が堪能でない外国人
その他、避難情報が発令された段階で、避難に時間を要する事情がある人も、早めの避難を心がけることが大切です。
それ以外の人(一般人)
以下のような準備をして、いつでも避難できるようにしておきます。
- 家族に連絡して状況や合流場所などを確認する
- 持ち出し用防災セット(非常時持ち出し袋)を手元に置く
- 避難場所や避難経路を確認する
- 常に気象情報や自治体からの指示を確認する
各種警報の発表や避難勧告・避難指示の発令があった場合は、家族と連絡をとり、状況を見ながら避難行動を開始します。
避難行動は、避難に時間がかかる人に合わせるのが基本です。
家族に「避難に時間がかかる人」がいる場合は、避難準備・高齢者等避難開始が発令された時点で避難を開始しましょう。
避難勧告
避難勧告とは、人的・物的被害を生じさせる災害が発生するおそれが高い場合に、避難を呼びかけるために各自治体(市区村長)が発令する勧告です。
根拠法令は、災害対策基本法第60条です。
災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。
引用:災害対策基本法第60条
避難勧告は、避難準備・高齢者等避難開始よりも緊急性が高い場合に発令されます。
避難勧告発令の目的は、対象地域に住んでいる人や滞在している人の生命や身体を保護するために、安全な場所への避難を促すことです。
避難を強制することはできませんが、勧告を尊重することが期待されています。
各地域によって発生する災害の種類や被害の程度が異なるので、避難勧告を発令する一定の基準は示されていません。
避難勧告が発令された場合の行動
避難勧告は、人的・物的被害を生じさせる災害が発生するおそれが高い場合に発令されるものです。
「勧告」という言葉から受けるイメージで、「促されているだけだから、まだ大丈夫だろう。」と勘違いする人が少なくありません。
しかし、すぐ近くまで危険が迫っていることを知らせるのが避難勧告です。
住んでいる地域に避難勧告が発令されたら、迅速に避難準備を整えて避難行動を開始してください。
あらかじめ決めておいた避難経路と避難場所を確認し、気象情報や各自治体の指示などに注意を払いながら、慎重に避難しましょう。
避難指示(緊急)
避難指示とは、人的・物的被害を生じさせる災害の危険が切迫している場合に、避難を呼びかけるために各自治体(市区村長)が発令する指示です。
根拠法令は、避難勧告と同じく災害対策基本法第60条です。
避難勧告よりも緊急性が高い場合に発令されます。
以前は、「避難指示」という名称でした。
しかし、2016年12月に「避難準備情報」が「避難準備・高齢者等避難開始」に名称変更されたのと同時に、「避難指示(緊急)」に変更されました。
避難指示(緊急)が発令された場合の行動
避難勧告が発令された時点で避難を開始し、避難指示(緊急)が発令されたころには避難を完了しているのが理想ですが、未了の場合は迅速に避難場所へ移動してください。
避難行動が遅れて自宅にいる場合は、避難するか自宅に留まるかの判断が必要になります。
気象情報や各自治体の指示、屋外の状況を確認し、避難行動をとると危険を招くようであれば、屋内にとどまって安全確保に努めましょう。
特に、避難に時間を要する人や、彼らを支援する必要がある人は、無理に避難行動を開始しないことが、身の安全を守ることにつながることもあります。
避難命令について
ニュースなどでは「避難命令」という言葉が使われることがあります。
しかし、日本の避難情報には「避難命令」という区分はありません。
では、避難命令とは何を指す言葉なのでしょうか。
使用されている状況を踏まえると、避難指示より一段上の「警戒区域への指定」を「避難命令」と呼んでいることが分かります。
避難勧告や避難指示と混同しやすいの、注意してください。
警戒区域への指定とは
警戒区域への指定とは、自治体などが、災害対策基本法などに基づいて、罰則を定めて指定された区域への立ち入りを制限するものです。
自然災害か人災かを問わず、災害によって人の身体に被害が及ぶことを予防するための措置です。
根拠法令は災害対策基本法第63条です。
災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、警戒区域を設定し、災害応急対策に従事する者以外の者に対して当該区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該区域からの退去を命ずることができる。
引用:災害対策基本法第63条
避難情報と違うのは、警戒区域へ指定された地域への立ち入りを罰則付きで制限または禁止するところです。
許可を得ず区域内に留まると、強制的に退去させられることになります。
避難命令という制度はありませんが、事実上、「警戒区域への指定」が避難指示より一段階上の避難情報となっているのです。
罰則の内容は、適用される法律によって異なります。
根拠法令 | 罰則 |
災害対策基本法 | 10万円以下の罰金または拘留 |
原子力災害対策特別措置法 | 10万円以下の罰金または拘留 |
武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律 | 30万円以下の罰金または拘留 |
水防法 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
消防法 | 30万円以下の罰金または拘留 |
立ち入りが制限されない警戒区域
注意したいのは、立ち入りが制限されない警戒区域も存在することです。
立ち入りが軽快されないのは、以下の法律で定められた警戒区域です。
立ち入りが制限されない警戒区域 | 根拠法令 |
土砂災害警戒区域 | 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 |
土砂災害特別警戒区域 | |
津波災害警戒区域 | 津波防災地域づくりに関する法律 |
津波災害特別警戒区域 |
ただし、人命に危険が及ぶ恐れが高い地域であることは間違いないので、極力立ち入りは控えるべきです。
まとめ
避難のタイミングを決めるために欠かせない情報が、避難情報です。
避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示という3種類があるので、それぞれの意味を正しく理解し、適切な時期に避難できるようにしましょう。
ニュースでは「避難命令」という言葉を見聞きすることがありますが、「警戒区域への指定」のことです。
避難情報よりも一段階上の情報であり、身の危険が迫っている状況で発令されるものなので、すぐに適切な対応をとってください。