- 防災士とはどのような資格か
- 防災士試験の内容
- 防災士資格の仕事や就職への影響
防災士は、防災に関する民間資格です。
毎年のように自然災害がする中で防災に関心を持つ人が増えており、防災士資格を取得する人も増加傾向にあります。
しかし、「防災士は防災のプロである」、「資格を取得すると就職が有利になる」などと誤解している人も多いのが現状です。
そこで、この記事では、防災士とはどのような資格か、防災士に期待される役割と実際にできること、仕事や就職への影響、防災士資格試験について解説します。
防災士とは
防災士とは、日本防災士機構が認証する民間資格です。
日本防災士機構では、以下のとおり定義されています。
「”自助”“共助”“協働”を原則として、社会の様々な場で防災力を高める活動が期待され、 そのための十分な意識と一定の知識・技能を修得したことを日本防災士機構が認証した人
引用:日本防災士機構
阪神・淡路大震災発生後、大規模災害が発生すると行政主導の救助救出活動などが遅延・制限されるという教訓を踏まえ、民間人の防災リーダーを養成するために創設されました。
全国の自治体や教育機関などで防災士養成の取り組みが行われており、防災士を配置する自主防災組織、学校、福祉施設なども増えています。
防災士の数
防災士の認証登録者数は、日本防災士機構のウェブサイトで公開されています。
174,423名(2019年5月末までの累計)
出典:日本防災士機構
防災士資格を取得する人の職業
以下のような人が、防災士資格を取得しています。
- 企業、団体、自治体の防災担当者や危機管理担当者
- 町内会役員や消防団員
- 大学や学校の教員
- 消防署職員
- 自衛隊員
- 警察官など
その他、地域の防災活動に携わりたいという意欲を持った人や、被災経験のある人など、年齢や経歴に関わらずたくさんの人が防災士資格を取得しています。
防災士に期待される役割とできること
防災士資格を取得した人にはどのような役割が期待され、また、実際にどのようなことができるでしょうか。
防災士に期待される役割
防災士には、平時と災害発生時のそれぞれに期待される役割があります。
平時 | ・災害発生時に自分と家族の命と生活を守るために、防災セットや備蓄品を備える、自宅内の安全対策を講じる、防災訓練に参加するなど ・防災について親族、友人、知人に広めたり、地域や職場で災害への備えを促したりする ・防災講義、防災訓練、避難所訓練を企画・開催したり、自主防災組織などに参加したりする |
災害発生時 | 【被災した場合】 ・まずは自分と家族の身を守る ・避難誘導、初期消火、救出救助活動など地域を守る活動に参加する |
【被災しなかった場合】 ・被災地支援活動に積極的に参加する 例:被災地のボランティア活動、物資の調達・運搬支援、職能を生かした支援など |
防災士にできること
防災士は、資格取得の過程で、自然災害発生のメカニズム、災害発生時の対応、地域の防災活動、行政の防災対策と災害時の対応、避難所の開設と運営、災害関連情報、応急手当の方法などの基礎を学びます。
災害発生時に適切かつ迅速に行動し、自分や家族、地域の人々を守るのに必要な意識と知識・技能を学習するのです。
平時には、防災に関する知識や技能を活かして災害に備えるとともに、周囲の人々に防災の知識を伝えたり、自主防災組織などで積極的に活動したりして、地域の防災力の底上げを図ります。
災害発生時には、行政や民間組織などの指示に従い、近隣住民と協力しながら、防災の知識や技能を生かして避難誘導、初期消火、救出救助活動、避難所解説などを行うことになります。
防災士は「防災のプロではない」
防災士は、あくまで民間資格です。
国家資格のような権利(権限)や義務、責任は何もなく、災害現場では自分の意思で行うボランティア活動をすることになります。
また、防災士資格取得の過程で学習する内容は防災の基礎知識に過ぎず、「防災に詳しい人」の域を出ません。
職場や地域では、防災士資格を取得していると、「防災に対する高い意識と知識・技能を持っている」とみなされやすいです。
しかし、会社のBCP策定、防災セット・備蓄品に何を備えるか、避難訓練の企画・運営など重要な部分は防災のプロの仕事で、防災士資格を取得しただけの人に任されることはほぼありません。
企業や官公庁の防災担当者やアドバイザーとして活躍している防災士もいますが、防災士だからその仕事をしているのではなく、防災関連の仕事をしている人が防災士資格を取得したに過ぎません。
「防災士=防災のプロ」というのは誤解です。
私は、企業や官公庁の防災講義の講師を務めていますが、防災士資格を持っているからではありません。
防災関連の研究職という肩書や、企業の防災アドバイザーとしての経験があるからです。
また、災害現場では防災士ではなく研究職として視察を行い、行政の会議に参加していますし、プライベートでボランティアに参加するときも防災士を名乗ることはありません。
防災士と就職・仕事
「防災士になれば、就職に有利」という人がいますが、防災士資格を取得しても就職が有利になることはありません。
仕事に関しては、防災士資格を取得した直後に職場の防災担当者に抜擢されたケースを1件知っています。
しかし、資格取得以前から災害への備えについて会社に助言していた人なので、防災士になったから防災担当になったとは言えないでしょう。
ただし、積極的に被災地支援活動に従事したり、地域の自主消防組織や防災関連行事に参加したりしていれば、評価されることがあります。
つまり、防災士資格を取得するだけでなく、防災に関する実績を積んでいれば、評価される可能性はあるということです。
防災士になるには
防災士になるには、原則として、以下の手順を踏むことになります。
- 日本防災士機構が定める防災士養成研修講座を受講する
- 資格取得試験を受験して合格する
- 自治体や日本赤十字社などが開催する救急救命講習を受講して修了する
- 日本防災士機構に登録申請をして登録される
例外として、自治体が開催する講習会に参加する方法があります。
また、消防OBや警察OB向けの特例制度が設けられています。
防災士になるための費用
防災士になるには、約61,000円の費用がかかります。
手続き | 費用 |
防災士養成研修講座受講料 | 49,000円 |
消費税 | 3,920円(2019年10月からは4,900円) |
防災士資格取得試験受験料 | 3,000円 |
防災士認証登録料 | 5,000円 |
合計 | 60,920円(2019年10月からは61,900円) |
防災士養成研修講座
自治体、大学、民間法人などが実施する防災士養成研修講座を受講します。
防災士教本に掲載されている以下の31講目のうち、12講目以上を履修する必要があり、2日間の研修講座を受けることになります。
序論 | 第1講 近年の自然災害に学ぶ 第2講 防災士の役割 |
いのちを自分で守る~自助~ | 第3講 身近でできる防災対策 第4講 耐震診断と補強 第5講 災害とライフライン 第6講 災害と交通インフラ 第7講 災害医療 |
地域で活動する~共助・協働~ | 第8講 行政の災害対応 第9講 避難所運営と仮設住宅の暮らし 第10講 災害と応急対策 第11講 地域の自主防災活動 第12講 災害とボランティア活動 第13講 緊急救助技術を身につける 第14講 防災訓練 |
災害発生の仕組みを学ぶ~科学~ | 第15講 地震のしくみと被害 第16講 津波のしくみと被害 第17講 火山噴火のしくみと被害 第18講 風水害と対策 第19講 土砂災害と対策 第20講 火災と防火対策 |
災害に関わる情報を知る~情報~ | 第21講 災害情報の入手と活用 第22講 災害と流言・風評 第23講 公的機関による予報・警報 第24講 地震に関する知見・情報 第25講 被害想定とハザードマップ 第26講 避難と避難行動 |
新たな減災や危機管理の手法を身につける~予防・復興~ | 第27講 都市防災 第28講 災害と危機管理 第29講 企業防災と事業継続計画 第30講 災害と損害保険 第31講 地域の復旧と復興 |
引用:防災士になるには|日本防災士機構
研修講座を履修しなかった講目は、所定のレポートなどを提出します。
防災士資格取得試験
研修講座の2日目に、研修会場で試験が実施されます。
- 形式:3肢択一
- 出題数:30問
- 出題範囲:防災士教本の内容全て
- 時間:50分
- 合格基準:80%以上正答
これまでの合格基準は70%以上でしたが、2019年度より80%以上に引き上げられています。
日本防災士機構の発表では、理由として「防災士の質をいっそう高めることも視野に入れる段階」になったことが挙げられています。
防災士試験の合格率
講評されていませんが、90%を超えており、四捨五入すると100%です。
出題範囲は研修講座の教材(防災士教本)だけで、応用問題や実践問題も出題されないので、講義を聞いて教本を一読しておけば合格することができます。
救急救命講習
防災士になるには、研修講座都市圏に加え、全国の自治体、消防署、日本赤十字社などが主催する救急救命講習を受講して、修了証を取得する必要があります。
防災士資格の要件を満たす救急救命講習については、日本防災士機構のウェブサイトに掲載されています。
2019年度より、救急救命講習の修了証の要件が、「①防災士の認証登録申請時の5年以内に発行されたもので、②修了証の発行者が定めた有効期限内のもの」とされました。
防災士には防災グッズや防災セットの知識が必要
防災士として活動したいと思うなら、防災グッズや防災セットを一式そろえておきたいところです。
なぜなら、「本当に役立つ防災グッズは何か教えてほしい」と思っている人がたくさんいるからです。
ネット上には防災グッズや防災セットに関する情報があふれていますが、サイトごとに書かれている内容が異なります。
例えば、あるサイトでは「絶対に必要」と紹介されている防災グッズが、別のサイトでは「いらない」と書かれていることは珍しくありません。
個人が運営するサイトならともかく、行政や公的機関が運営するサイトの情報にも統一性がないので、情報の受け取り手である一般の人は混乱してしまいがちです。
こうした状況があり、本当に役立つ防災グッズを知りたいと思いながら、ネット上の情報に混乱している人が多いのが現状です。
そのため、防災士であることを明かせば、高い確率で防災グッズに関して質問されることになります。
質問されたときに、答えに詰まったり、表面的な説明に終始したりすると、「あれ、防災士って聞いたけど、たいしたことないな。」と思われて終わります。
一方で、自分で防災セットや防災グッズを備えていれば、特徴やメリットについて具体的に話すことができ、「この人は、本当に防災に詳しいんだな。」と思ってもらうことができます。
そして、そうした小さなことの積み重ねが、防災講義を依頼されたり、地域の防災活動への参加を誘われたりするきっかけとなり、活躍の場を増やすことにつながります。
防災士になったなら、是非、マイ防災セットを備え、防災グッズの機能を一つひとつ確認してみることをおすすめします。
まとめ
防災士は民間資格であり、特定の権限や義務・責任はなく、取得した人が防災のプロというわけでもありません。
就職が有利になることもありません。
しかし、「防災に関心を持ち、災害への備えや減災に意欲のある人」として、職場や地域で防災関連の仕事や行事に関わる機会は増える可能性があります。
また、防災士資格を取得する過程で防災に関する正しい知識を得ることで、災害への備えや災害発生時の適切な行動が可能になり、ひいては自分や家族の命や生活を守ることにつながります。
防災の知識を職場や地域に広めることで、周囲の人の防災力を高めることもできるはずです。