大規模災害が発生すると、通信インフラの損傷や通信規制によって電話回線がつながりにくくなり、家族などとの通話が困難になります。
一方で、電話と比較して災害発生時にも利用できることが多いのが、インターネットです。
東日本大震災や熊本大地震の被災地では、電話がつながりにくい状況下、被災者の多くがインターネットを利用して家族との連絡や安否確認、避難場所や避難経路の確認、災害情報の取集や救助要請などを行いました。
特に利用者が多かったのが、Facebook、LINE、Twitter、InstagramなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)です。
SNSは、スマホやタブレットなどの端末とインターネット接続環境があれば、誰でも手軽に情報発信と収集をすることができます。
そのため、テレビやラジオなどの既存メディア以上に、災害発生時に役立つ防災グッズ(防災ツール)として注目されるようになっています。
一方で、災害発生時における活用機会が増えるにつれて、SNSの問題点も表面化しています。
この記事では、災害発生時におけるSNSによる情報収集・発信のメリットとデメリットについて、分かりやすく解説します。
災害発生時にSNSは使えるか
防災講義の参加者からは、「災害発生時にはネットが使えなくなるのではないか。」という質問を受けることがあります。
結論から言うと、災害発生時には電話はつながりにくくなりますが、インターネットは使い続けられることが多いです。
電話がつながりにくくなり、インターネットは使い続けられる理由は、電話とインターネットの仕組みの違いです。
電話の仕組み
電話で誰かと通話するときの一般的なプロセスを見てみましょう。
出典:NTT東日本
- 携帯電話から電話をかける
- 最寄りの無線基地局のアンテナが受信
- 有線ケーブルを通って複数の交換機を経由
- 相手の携帯電話の最寄りの無線基地局のアンテナから電話がつながる
電話で誰かと通話している間は1つの回線を独占することになりますが、この回線の数には限りがあります。
通信会社は、平時の通信であれば十分にまかなえるだけの回線数を確保しています。
しかし、災害が発生するとアクセスが急増する上、警察や消防の通信確保を優先する通信規制が行われるので、通信会社が確保している回線数を上回ることがあります。
その結果、電話がつながりにくいという現象が発生します。
インターネットの仕組み
インターネットは、特定の回線を独占するのではなく、あるデータを細かく分割して送ります。
分割されたデータの全てが必ずしも同じルートを通るとは限らず、あるルートが混んでいれば、自動で別のルートを探して分割データが送られます。
また、インターネット回線はクモの巣のように張り巡らされており、データを送るルートは無数にあります。
そのため、回線がパンクして利用できなくなるという状況に陥りにくいのです。
災害用統一SSID「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」
それでも、通信会社の基地局が被災した場合などは、インターネットが利用できなくなることがあります。
そうした状況に備えて、日本では00000JAPANというサービスが開始されています。
00000JAPANとは、大規模災害発生時に、契約中の通信キャリアとは関係なく、誰でも無料で利用できる災害用統一ネットワークです。
災害発生時に一定条件を満たした場合、被災者などがインターネットに接続できるよう、通信事業者などが公衆無線LANのアクセスポイントを無料で開放することになっています。
00000JAPANは、2011年3月11日に発生した東日本大震災において、破損した通信網の復旧に約1ヶ月を費やし、被災者の安否確認や連絡に大きな影響が出たことを教訓にして始められました。
インターネットの仕組みと00000JAPANのサービスなどにより、災害発生直後はともかく、長期にわたってSNS(インターネット)を使った情報発信・収集ができなくなる状況は少ないと言えます。
ただし、万が一の場合もあるので、インターネットが利用できない場合の情報収集手段は確保しておくようにしましょう。
災害発生時のSNSによる情報収集・情報発信
SNSとは、インターネット(Web)上における個人のコミュニケーションを促進し、社会的ネットワークを築くことを支援するサービスの総称です。
英語表記の「social networking service」の頭文字を並べて「SNS」と呼ばれます。
SNSは、その特性上、災害発生時の連絡や情報発信・収集に大きな役割を果たす反面、デマや誤情報の発信・収集などの課題も抱えています。
災害時のSNS活用のメリット
災害時におけるSNS活用のメリットは、情報発信と情報収集の迅速さ、量の多さ、つながりやすさです。
例えば、以下のような情報を、SNSでリアルタイムに収集、発信することができます。
- 安否確認
- 住んでいる地域の被害状況や自然災害などの情報(災害関連情報)
- 避難場所や避難所の状況
- 支援物資を得られる場所
- 救援要請
また、電話回線がつながりにくい状況でも、Facebook、LINE、Skypeなどで通話ができることもあります。
Twitterなどで#(ハッシュタグ)機能を利用すれば、特定のテーマに関する投稿を検索して一覧表示できるので、必要な情報を手軽に発信・収集することも可能です。
例えば、救助が必要な場合に、Twitterで「#救助」を使って救助要請を行えば、救助隊に発見してもらいやすくなります。
これまで災害発生時の主な情報源であったテレビやラジオは、住んでいる地域に限定した災害や被害の情報など、被災者が「本当に知りたい情報」が得にくいことが課題とされていました。
SNSを利用することにより、被災者が「本当に知りたい情報」をより早く、より多く収集するだけでなく、自分の情報を不特定多数の人に発信することもできます。
災害時におけるSNS活用のデメリット
SNSの特徴である、情報発信・収集が迅速かつ大量に行えることは、使い方次第でデメリットにもなります。
デメリットの最たるものが、悪質なデマや誤った情報の発信・収集と拡散です。
例えば、Twitterの場合、フォローしていない人のツイートであっても、閲覧制限がかかっていない限り自由に読むことができます。
ツイートの情報が有益だと思えば、本人の許可を得ず、情報の真偽を確認せずにリツイートで拡散することが可能です。
つまり、情報の信頼性や重要度に関わらず、個人が「正しい」と思えばその情報に基づいて行動し、「有益でみんなに伝えるべき情報」だと思えばリツイートされやすいのです。
また、救助要請の必要性が高くないのに、Twitterで救助要請するときに使用する#(ハッシュタグ)「#救助」を使って大量のツイートを行うなど、悪質な行為も少なからず発生します。
Twitterに関わらず、実際には被害に遭っていないのに、遊び感覚で「家に閉じ込められて出られない。」、「足を怪我して動けない。」などと投稿して読み手の不安をあおったり、被災者の誹謗中傷を投稿したりするケースも後を絶ちません。
災害発生時のSNSによる問題を減らすには
今後、災害発生時におけるSNSの役割はより大きくなる見込みですが、SNSのデメリットをいかに減らすかということが大きな課題となっています。
重要視されているのが、ネットリテラシーの向上です。
ネットリテラシーとは、インターネットを適切に使いこなすための能力です。
災害時に関していえば、インターネット上の情報の信頼性や重要度を見極めて必要な情報を選ぶことや、デマや誤情報といった不適切な情報を発信・収集しないことです。
例えば、Twitterの場合、ツイートの情報を鵜呑みにせず、ツイートしたアカウントを確認したり、政府機関や公的団体が発信した情報と照らし合わせたりして、情報の信頼性や重要性を十分に吟味することが求められます。
まとめ
SNSは、災害発生時における安否確認や情報収集・発信のために役立つ重要なツールですが、使い方を間違えると二次被害を受けたり、不特定多数の人を混乱させたりすることになりかねません。
SNSが持つデメリットについても十分に理解した上で使うようにしましょう:。
SNSと同じく、災害発生時に役立つのが防災アプリです。
平時のうちにスマホにインストールして使い慣れておけば、いざというときに必要な情報を迅速入手することができます。