- 地震保険の保険金申請・請求代行とは何か
- 申請・請求代行をめぐるトラブル
- 利用する場合の注意点
地震保険の保険金申請(請求)は、被保険者が自分で行うのが基本ですが、申請をサポートしたり代行したりするサービスもあります。
ややこしい地震保険の保険金請求手続きを手伝ってくれる便利なサービスですが、詐欺や修理工事との抱き合わせなどの問題を抱えることもあります。
そのため、利用するかどうかは慎重に検討しなければなりません。
この記事では、地震保険の保険金申請・請求代行とはどのようなサービスか、サービスをめぐるトラブル、利用する場合の注意点について解説します。
地震保険の保険金申請・請求代行とは
地震保険の保険金申請・請求代行とは、地震保険の保険金請求手続きを加入者の代わりに行うか、請求の支援を行うサービスです。
一般的には、火災保険の保険金申請・請求代行サービスが有名ですが、近年は、火災保険とセットで加入する地震保険についても同じサービスが登場しています。
もともとは、リフォーム業者などが契約を取り付けるために考案したサービスで、無料または安価で申請・請求代行を行うことを条件に住宅のリフォームなどを勧誘するのが一般的なスタイルです。
しかし近年は、住宅のリフォームや修理とは関係なく、保険金の申請・請求代行を専門に行う業者やNPOが登場しています。
保険金申請・請求代行は全部代行ではなくサポートが基本
ほぼすべての損害保険会社は、「保険金請求は被保険者がしなければならない」と規約に定めています。
そのため、地震保険の保険金の申請・請求を全て業者に代行してもらうと契約違反になるリスクがあります。
契約違反と判断された場合、各損害保険会社の方針によって保険金が支払われなかったり、契約が解除されたりすることになりかねません。
こうした事情があるので、全ての手続きを代わりに行う保険金申請・請求代行サービスはほとんどありません。
通常は、保険金請求について被保険者に助言したり、事前調査を実施したり、損害保険会社の調査(査定)に立ち会って交渉したりするサポートが中心です。
保険金申請・請求代行の流れ
地震保険の保険金申請・請求代行の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 被保険者が業者に問い合わせ
- 業者の担当者が事前調査、結果の報告
- 被保険者が損害保険会社に地震保険の保険金受給申請
- 保険会社の担当者による訪問調査(査定)、業者の担当者が立ち会い・交渉
- 保険金の受取り
- 手数料(報酬)の支払い
赤字部分が、保険金申請・請求代行業者の関わる部分です。
損害保険会社の訪問調査よりも前に、地震で被害を受けた自宅を詳細に調査し、その結果に基づいて損害保険会社と交渉をするのが主なサービス内容となります。
地震保険の申請や請求代行をめぐるトラブル
地震保険の申請や請求代行は、申請漏れを防ぐことができるというメリットがある反面、詐欺被害などのトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
全国の消費生活センターや国民生活センターには、地震保険の申請や請求代行をめぐるトラブルの相談が相次いでいます。
例えば、「損害保険会社と交渉する契約を結んで手数料を支払ったにも関わらず、何もしてもらえなかった。」、「契約の解約を申し出たら、保険金の50%を解約料として請求された。」というケースが報告されています。
また、申請代行業者が住宅の修理業も営み、地震保険の保険金から高額な手数料を請求した上、保険金の残額を修理工事の費用として請求するケースも珍しくありません。
2016年に発生した熊本地震でも地震保険の申請代行をめぐるトラブルが発生し、ニュースになりました。
以下、産経新聞に掲載された内容を引用します。
平成28年4月の熊本地震で40代男性は木造2階建ての自宅の基礎部分に複数のひびが入った。本来は一部が損壊したと認定されれば保険金額の5%が受け取れるが、対象でないと思い込み、請求手続きを放置していた。
昨秋、知人の紹介で業者の訪問を受け、保険金の約3割を報酬として渡す契約を結ぶ一方、申請手続きは業者の指示に従い自分で行った。受け取った保険金は約60万円。うち約20万円を業者に渡した後、損保会社から「そんな業者とは交渉していない」と伝えられた。
このケースは氷山の一角であり、実際には詐欺被害に遭ったのに気づいていない人も多いと思われます。
損害保険会社の対応
損害保険会社は、地震保険申請や請求代行をめぐるトラブルについて、「会社とは一切関係がないこと」をウェブサイトなどで告知しています。
また、地震などで損害を受けた場合は、契約者本人が自ら損害保険会社に連絡して保険金請求手続きをするよう促しています。
このような損害保険の申請代行業者は、当社とは一切関係ありません。
地震保険や火災保険などにご契約されている方で、損害を被った場合は、まず、ご自身で当社にご連絡いただき、保険金の請求手続きを行ってください。
地震保険の保険金は自分で申請(請求)するのが基本
損害保険会社が促すように、地震保険の申請(請求)は自分でするのが基本です。
大切なのは、地震などで自宅が損害を受けたときに、「これくらいの損害では、保険金は出ないだろう」ではなく、「保険金が出るかもしれないから申請してみよう」と考えることです。
地震保険で補償されるのは、「地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没または流失による(財務省ウェブサイトより引用)」損害です。
これだけでは具体的な内容が分かりにくいですが、地震などが原因で生じた損害であれば、小さなひび割れや亀裂でも建物の主要構造部なら補償される可能性があります。
「保険金は出ないだろう」とダメもとで申請したら、思いがけず保険金が支払われたというケースは多いです。
地震などで自宅が少しでも被害を受けたら、まずは申請する方向で準備を進めましょう。
地震保険の申請・代行請求をする場合
防災生活では、損害保険会社と同じく、トラブルを避けるために、地震保険の申請(請求)は自分ですることをおすすめします。
しかし、保険金申請・請求代行サービスを利用したい人が少なからずいることは理解しています。
例えば、被災したことで精神的に落ち込み、保険など小難しい手続きをする余裕がない場合、誰かに保険金の手続きを任せたいと思いやすいでしょう。
また、性格上、自力では保険金額をめぐる交渉が難しい場合に、詳しい人にサポートを頼みたいと思うこともあるでしょう。
申請・請求代行を利用するかどうかは本人の判断なので、利用を止めようとは思いません。
ただし、地震保険の申請や代行請求を利用する場合は、トラブルのリスクを十分に理解した上で、利用する業者を選ぶことは徹底してほしいと思います。
地震保険の申請・代行請求業者の選び方
申請・請求代行サービスを利用する場合、以下の条件を満たすところを選ぶようにしてください。
- 自分で探した業者
- 住宅修理業者やリフォーム業者ではない
- 住宅修理やリフォーム工事を斡旋してこない
- サービスが有料である
- 解約料が発生しない
- 契約書の控えが交付される
自分で探した業者
地震保険の申請や請求代行を利用する場合、業者は自分で探してください。
地震発生後は、自宅修理やリフォームの業者が被災地に入り、被災者宅を訪問して修理やリフォームの勧誘を行います。
こうした業者の中には、「申請は無料、修理は保険金の範囲で行う」などと、抱き合わせで提案してくるところがあります。
しかし、申請と修理の抱き合わせは、独占禁止法違反(不用品強要)に当たる可能性がありますし、修理費用として支払った保険金を持ち逃げされるケースもあります。
全ての業者に問題があるわけではありませんが、リスクが高いことは間違いありません。
住宅修理業者やリフォーム業者ではない
上に書いたとおり、住宅修理業者やリフォーム業者が申請などのサービスを展開している場合、ほぼ100%、修理との抱き合わせが目的です。
したがって、申請などだけを利用したい場合、こうした業者には依頼しないようにしましょう。
住宅修理やリフォーム工事を斡旋してこない
住宅修理やリフォームの業者ではなくても、契約の話をする中で修理やリフォームを勧められることがあります。
「実は、当社が懇意にしている住宅修理業者がおりまして」などと言ってくる場合は、要注意です。
あらかじめ保険金の申請サポート以外のサービスを斡旋しないことを約束させたおくと安心です。
ウェブサイトに「保険金を使った住宅修理やリフォーム工事を斡旋しない」と明記されていることを確認するか、電話問合せの際、担当者に「斡旋しない」とはっきり言わせることが大切です。
サービスが有料である
抱き合わせを目的として申請・請求代行を請け負う業者は、ほぼ100%「無料で代行する」と提案し、その後に修理などの工事の契約を持ち掛けてきます。
一方で、申請・請求代行を専門に行う業者の場合、それで利益を上げる必要があるので、代行サービスが有料になっています。
注意したいのは、リフォーム業者とつながっている業者もいることです。
その場合、保険金を受け取った時期(申請代行業者に支払いを済ませる前後)に知らない業者から連絡が入り、リフォームの勧誘を受けることになります。
解約料が発生しない
申請や抱き合わせのトラブルで多いのが、契約を解約しようとすると高額の解約料を求められるケースです。
例えば、解約を申し出ると、保険金の50%に相当する解約料を請求されたというケースがあります。
そのため、契約をする前に解約料が発生しない(または契約者の許容範囲内である)ことを確認しておきましょう。
契約書の控えが交付される
「契約書に署名・押印したのに、控えが交付されなかった」というトラブルも少なくありません。
事前に、契約書の控えが交付されることを確認しておきましょう。
まとめ
地震保険の保険金を申請・請求する手続きは、被保険者が自分でするのが基本です。
何らかの事情で申請・請求代行業者に依頼する場合は、詐欺や抱き合わせ契約などのリスクが極力少ないところを探し、自己責任で契約するようにしてください。