- 避難場所と避難所の違い
災害発生時に避難する場所には、「避難所(指定避難所)」と「避難場所(指定緊急避難場所)」の2種類あります。
それぞれ避難する目的やタイミングが異なるのですが、同じような施設だと思っていたり、避難所と避難場所の名前と役割を逆に覚えていたりする人がとても多いです。
避難所と避難場所の違いを知らないと、災害発生時に適切な場所へ避難できず、命を落とすリスクがあります。
そこで、この記事では、避難所(指定避難所)と避難場所(指定緊急避難場所)の違いについて解説します。
避難場所(指定緊急避難場所)とは
避難場所とは、地震などの災害が「発生した」または「発生するおそれ」があり、その場に留まると命の危険があるときに、危険な状態が解消されるまで避難して一時的に待機する場所です。
災害発生時に命を守るためにまず逃げ込む場所で、大きな公園や緑地、高台、大学や学校の敷地内などが避難場所に指定されます。
避難生活を送る場所ではないので、基本的には保存水や非常食の備えはありません。
災害対策基本法における避難場所
災害対策基本法では、「指定緊急避難場所」として規定され、市区町村長が指定することが定められています。
市町村長は、防災施設の整備の状況、地形、地質その他の状況を総合的に勘案し、必要があると認めるときは、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における円滑かつ迅速な避難のための立退きの確保を図るため、政令で定める基準に適合する施設又は場所を、洪水、津波その他の政令で定める異常な現象の種類ごとに、指定緊急避難場所として指定しなければならない。
引用:災害対策基本法第49条の4第1項
「洪水、津波その他の政令で定める異常な現象の種類ごとに」とあるように、避難場所は、災害の種類ごとに指定されます。
例えば、大地震の避難場所は、津波による被害を受けにくい高所、豪雨や台風の避難場所は、浸水や土砂災害の被害を受けにくい河川や土砂災害警戒区域から距離のある場所が指定されます。
また、火災の避難場所は、炎の影響を受けにくい公園などのひらけた場所が指定されることが多くなっています。
自宅、職場、子供の学校などの周辺の避難場所を探すときは、災害ごとに避難場所を決めて避難経路を確認しておく必要があります。
異なる災害の避難場所として、同じ避難場所が指定されていることはあります。
避難所(指定避難所)とは
避難所とは、災害によって家屋の損傷・倒壊などの「被害を受けた」か、「被害を受けるおそれ」がある人が、一定期間滞在して避難生活を送る場所です。
小中学校や公民館などの公共施設が避難所に指定され、災害の影響で帰宅できない、または帰宅すべきでない人が滞在します。
避難生活を送る場所なので、平時から保存水や非常食などが備蓄されています。
災害対策基本法における避難所
災害対策基本法第49条の7第1項では、「指定避難所」として規定され、市区町村長が指定すると定められています。
市町村長は、想定される災害の状況、人口の状況その他の状況を勘案し、災害が発生した場合における適切な避難所(避難のための立退きを行つた居住者、滞在者その他の者(以下「居住者等」という。)を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保することが困難な被災した住民(以下「被災住民」という。)その他の被災者を一時的に滞在させるための施設をいう。以下同じ。)の確保を図るため、政令で定める基準に適合する公共施設その他の施設を指定避難所として指定しなければならない。
引用:災害対策基本法第49条の7第1項
災害対策基本法施行令第20条の6では、指定避難所に指定できる施設の基準が規定されています。
- 被災者などの滞在に必要かつ適切な規模
- 速やかに被災者などを受け入れたり、生活関連物資を配布したりできる
- 想定される災害の影響が比較的少ない場所にある
- 車両などによる輸送が比較的容易な場所にある
- 要配慮者の円滑な利用確保の措置が講じられている
- 要配慮者の相談・支援ができる体制が整備される
- 災害時に主として要配慮者の滞在に必要な居室が可能な限り確保される
避難所には保存水や非常食などが備蓄されていますが、数に限りがありますし、最低限のものしかありません。
また、各家庭のニーズや家族の状態に合った防災グッズは期待できません。
そのため、避難所で快適に過ごすためには、自分で防災セットや備蓄品を備えておくことが大切です。
仕事で避難所を視察したり、プライベートで災害ボランティアに参加したりすると、「避難所=簡易なホテル」だと勘違いしている被災者を目にすることがあります。
ボランティアや行政の職員をあごで使ったり、偉そうに振る舞ったりする人がいるのです。
これは言語道断です。
大規模災害が発生した場合、行政職員や指定避難所の職員も被災していることが多いです。
ボランティアの方も小間使いではなく、被災者もお客様ではありません。
災害発生時は、被災者と支援者が協力して避難所を運営し、異常事態の中で、少しでも快適に過ごせるように努めることが大切です。
災害対策基本法における避難場所と避難所の違い
避難場所と避難所の違いが明確に区別されたのは、東日本大震災から約2年が経過した平成25年に施行された改正災害対策基本法からです。
災害対策基本法とは
災害対策基本法とは、防災に関する総合的で計画的な行政の整備と推進を図るための法律です。
その目的は、第1条に規定されています。
国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。
引用:災害対策基本法第1条
改正される経緯
改正前の災害対策基本法や、それに基づいて中央防災会議が作成する防災基本計画では、避難場所と避難所が明確に区別されておらず、災害ごとの区分もありませんでした。
そのため、避難場所や避難所の名称は地域ごとに異なり、中には避難場所なのか避難所なのか分かりにくい名称もありました。
例えば、以下のような名称が使用されていました。
- 避難所がつく名称:避難所、一時避難所、一次避難所、指定避難所、市指定避難所、地域避難所、拠点避難所、広域避難所、震災時避難所、二次避難所、福祉避難所、補助避難所、予備避難所、自主避難所
- 避難場所がつく名称:避難場所、一時避難場所、一次避難場所、緊急避難場所、指定避難場所、市指定避難場所
- その他:一次開設避難収容所、屋外避難先、広域避難地、避難地、避難予定場所、避難施設
東日本大震災では、避難所と避難場所を区別できていない人や、災害の種類によって避難場所が異なることを知らない人が、津波の押し寄せる地域にある避難所へ避難して命を落としました。
避難所と避難場所に関する理解不足が原因で、被害が拡大してしまったのです。
こうした教訓を踏まえ、平成25年6月に施行された改正災害対策基本法では、避難場所(指定緊急避難場所)と避難所(指定避難所)がはっきりと区別されました。
避難場所と避難所の違い
避難場所と避難所の違いをまとめると、以下のとおりです。
違い | 避難場所 | 避難所 |
条文 | 第49条の4第1項 | 第49条の7第1項 |
目的 | 災害発生または発生のおそれがある場合に、危険を回避するために避難する場所 「災害発生時にまず逃げ込む場所」 | 災害の危険性を逃れて避難したり、帰宅できなくなったりした住民などが滞在する施設 「避難生活を送る場所」 |
指定 | 災害の種類ごとに指定 | 災害の種類は問わない |
避難場所と避難所の一番の違いは、平たく言えば「災害発生時にまず逃げ込む場所」か「避難生活を送る場所」かの違いです。
ここまで読むと、避難所と避難場所を混同することが、防災の観点からいかに危険かということが分かるかと思います。
同じ施設が避難場所と避難所を兼ねることがある
災害対策基本法第49条の8では、避難場所が避難所を、または避難所が避難場所を兼ねることができる旨を規定しています。
指定緊急避難場所と指定避難所とは、相互に兼ねることができる。
引用:災害対策基本法第49条の8
したがって、避難場所と避難所に別の施設が指定されている場合と、同じ施設が避難場所にも避難所にも指定される場合があります。
そのため、避難所と避難場所を決めるときは、避難する施設が避難場所の機能しかないのか、避難所の機能も備えているのかを確認する必要があります。
まとめ
避難所と避難場所は、「避難する場所」であることは共通していますが、「避難する目的」と「タイミング」が大きく違います。
災害の危険から逃れるために避難するのが「避難場所」、避難生活を送るのが「避難所」です。
また、避難場所は災害ごとに指定されるので、災害ごとに避難する場所を決めておく必要があります。
避難所には最低限の備蓄品がありますが、避難生活を快適に過ごすには、自分で防災セットや備蓄品を備えておくことが欠かせません。
災害発生時には防災グッズに注文が殺到し、何ヶ月も購入できなくなるものも多いので、平時のうちに買い揃えておきましょう。