- 災害派遣医療チーム(DMAT)とは
- DMATの研修制度
- DMATの派遣・待機要請
地震や津波、台風、火災などの大規模災害が発生すると、被災地に住む人の多くが負傷します。
災害時医療は平時の医療とは大きく異なりますし、被害の規模が大きい場合や、医療機関が被災した場合、地域の救急医療だけでは対応しきれなくなることも珍しくありません。
災害派遣医療チーム(DMAT)は、災害発生時における被災地の医療問題解決のために編成されるチームです。
この記事では、災害派遣医療チーム(DMAT)とは何か、日本DMATと都道府県DMAT、DMATの研修と派遣要請や待機要請について解説します。
災害派遣医療チーム(DMAT)とは
災害派遣医療チーム(以下「DMAT」という。)とは、大規模災害や事故などが発生した場合に、被災地の都道府県の要請を受け、迅速に被災地へ駆けつけて救急医療を行う医療チームです。
一般的には、英語表記の「Disaster Medical Assistance Team」の頭文字を並べてDMATと呼ばれます。
日本には、日本DAMTと都道府県DMATという2種類のDMATがあります。
日本DMATとは
日本DMATとは、厚生労働省が発足させた、主として大規模災害発生時に全国から被災地へ派遣されて救急治療を行う医療チームです。
阪神・淡路大震災では、広い範囲で傷病者が多数発生し、医療需要が急激に拡大しました。
しかし、被災地域の病院の被災、医療従事者の確保困難、ライフラインの断絶などが重なり、被災地内で十分な医療が受けられず死亡する人が相次ぎました。
こうした教訓を踏まえ、災害発生時に迅速に被災地へ派遣し、緊急治療、病院支援、傷病者の被災地外への搬送などを行うことができる医療チームの整備を求める声が強まりました。
そして、厚生労働省が認める災害医療に関する専門的研修や訓練を受けた医療チームとして、2005年4月に日本DMATが発足しました。
日本DMATの活動
DMATの主な活動は、災害現場における活動、病院支援、広域医療搬送、域内搬送などです。
災害現場における活動
災害現場や救助・救出現場において、レスキュー隊とともに活動し、トリアージ、メディカルコントロール緊急治療、現場治療などを行います。
災害によって倒壊した建物に閉じ込められるなどした負傷者に対して、捜索活動や救助活動と並行して医療を提供することで、救命効果を高めます。
- トリアージ:大規模災害が発生したが現場などにおいて、患者の重症度に基づいて治療の優先度(患者の治療順位、救急搬送順位、搬送先施設など)を決定・選別すること
- メディカルコントロール:救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間に救急隊員が行う医療行為について、医師が医学的観点から指示・指導・助言・検証することにより、医療行為の質を保障すること
病院支援
被災地域内の災害拠点病院などの支援と機能強化を行います。
具体的には、被災地域内の医療情報の収集と伝達、混乱状態の緩和と病院機能の維持、後方搬送の体制確保、トリアージ、応急診療などの支援を行っています。
災害拠点病院:災害発生時に災害医療を行う医療機関を支援する病院
広域医療搬送
広域医療搬送とは、重傷者の救命と被災地内医療の負担軽減を目的として、重傷患者搬送にDMATなどを被災地外から被災地内へ派遣し、重傷患者を被災地外の災害拠点病院等へ搬送しし救命することです。
域内搬送
救急車やヘリコプターなどによる傷病者の搬送で医療支援を行います。
現場から被災地内の医療機関への搬送だけでなく、被災地内の医療機関から近隣地域やSCUへの搬送などを行っています。
SCU(staging care unit):大規模災害発生時、傷病者を航空機で被災地外に搬送するために設置される拠点に設置される臨時医療施設
災害派遣医療チーム(DMAT)の実績
DMATは、2004年10月の新潟県中越地震で初出動して以降、大規模な自然災害、列車事故、ジェットコースター事故、通り魔事件、トンネル崩落事故、バス運転手の居眠り運転による事故などで実績を積み重ねています。
これまでに、自然災害発生時に関する主な出動実績は、以下のとおりです。
- 2004年10月:新潟県中越地震
- 2006年11月:北海道佐呂間町で発生した竜巻による災害
- 2007年7月:新潟県中越沖地震
- 2008年6月:岩手・宮城内陸地震
- 2009年7月:中国・九州北部豪雨災害
- 2011年3月:東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
- 2013年10月:平成25年台風第26号による伊豆大島の土砂災害
- 2014年8月:平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害
- 2014年9月:御岳山噴火
- 2015年9月:平成27年台風第18号による平成27年9月関東・東北豪雨災害
- 2016年4月:熊本地震
- 2018年7月:平成30年7月豪雨
都道府県DMAT
都道府県DMATとは、都道府県が発足させたDMATです。
2004年に東京都が東京DMATを発足させた後、大阪DMAT、神奈川DMATなど他地域でも発足しています。
都道府県DMATは、原則として、各地域内で発生した災害などを対象として出動します。
ただし、広域災害が発生した場合は支援のために他地域へ出動することがありますし、隊員の多くは日本DMATと都道府県DMATの両方に登録しています。
DMATの研修と派遣要請・待機要請
DMATは、災害医療の研修を受けた医師、看護師、救急救命士、事務職員などから構成されます。
DMATに参加するための研修としては、厚生労働省が実施する「日本DMAT隊員養成研修」、「統括DMAT研修」、「DMATロジスティックチーム隊員養成研修」、「DMAT技能維持研修」などや、都道府県が行う研修があります。
そして、研修を修了して厚生労働省の認定を受けると、DMAT登録者となります。
なお、研修を修了して認定を受けていれば、特別な資格は必要ありません。
派遣要請
DMATは、1チーム5人程度で編成され、通常は、3日間~1週間程度の滞在予定で被災地へ派遣されます。
DMATの派遣要請は、被災地域の都道府県が、他の都道府県、厚生労働省、国立病院機構などに対して行います。
原則として、災害などの規模が大きいほど多くのDMAT隊員(隊)が派遣されることになり、被災地域以外の都道府県からも派遣されます。
待機要請
各都道府県、厚生労働省、文部科学省は、必要に応じて、DMAT指定医療機関に対して待機要請をかけることがある他、自動待機基準も設定されています。
例えば、大津波警報が発表された場合や、一定基準以上の地震が発生した場合などは、自動待機基準に当てはまります。
DMATとJMAT
DMATと混同されやすいチームに、JMATがあります。
JMATとはとは、災害発生時に被災地へ派遣されて医療活動を行う、日本医師会が組織する災害医療チームです。
正式名称は日本医師会災害医療チームですが、英語表記の頭文字をとってJMATと呼ばれるのが一般的になっています。
JMATについては、別の記事で詳しく解説しています。
JMATとDMATの違いについても書いているので、関心がある人は読んでみてください。
まとめ
大規模災害が発生したときに、被災地医療に貢献するのがDMAT(災害派遣医療チーム)です。
日本DMATと都道府県DMATがあり、それぞれが被災地で活躍しています。
【参考】