- 防災とは何か
- 災害への備え方
災害が頻繁に発生する中で防災に関心を持つ人は増えてきましたが、実際に災害への備えをしている人はそれほど多くありません。
「関心を持つだけの人」と「防災を始めた人」の差は、「防災とは何か」という防災の定義を正しく知り、「防災=メリットがあること」だと思えているかどうかです。
災害を他人事だと思わずに、自分や家族にも起こりうることだと考え、防災が自分や家族の命や生活を守るのに役立つと理解することが、自ら防災に取り組むことにつながります。
防災とは何か(防災の定義)
まずは、「災害とは何か」について確認しておきましょう。
辞書における防災の定義
辞書で防災を引くと、以下のように書かれています。
台風・地震・火事などの災害を防ぐこと。
引用:デジタル大辞泉
災害を防ぐこと。
引用:大辞林第三版
災害を防ぐこと。暴風・洪水・地震・火事などの災害を防ぐこと。
引用:精選版日本国語大辞典
「災害を防ぐこと」という説明は、いずれの辞書でも共通です。
読んで字の如しなので、イメージしていた防災の定義と一致するのではないでしょうか。
行政における防災の定義
行政における防災の定義は、災害対策基本法第2条第2項に定められています。
防災 災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいう。
引用:災害対策基本法第2条第2項
「災害を未然に防止」する点は、辞書の「災害を防止すること」と共通しています。
加えて、災害が発生した場合に被害を最小限に抑える「減災」と、災害によって被害を受けたものをもとの状態に戻す「復旧」が、防災の定義に含められています。
辞書に書かれている防災の定義も、災害対策基本法で定められている防災の定義も、主語は個人ではなく国、地方自治体、企業など防災に関わる大きな組織です。
私たちの防災
個人や家族にとっての防災とは何かを考えた場合、防災の「自助」の定義がしっくりくるように思います。
自助というのは、一人ひとりが自分や家族の命、財産、被災後の生活を守るために、自ら災害に備えることです。
一言で言えば「自分の身は自分で守る」のが自助であり、私たちの防災です。
具体的には、以下のようなことに取り組むことです。
- 防災セットを備えておく
- 自宅の安全対策を整えておく
- 避難場所・避難所やそこまでの経路を確認しておく
- 防災アプリをインストールしておく
- 防災訓練や防災講義に参加して防災力を高めておく
- 近隣住民と良好な関係を築いておく
- 災害発生時の対応を家族で話し合っておく
防災に取り組む意味
では、防災に取り組むことにどのような意味(メリット)があるでしょうか。
防災の自助・共助・公助
南海トラフ地震のような広域的な大規模災害が発生した場合、被害を最小限に抑えるには、「自助」、「共助」、「公助」が重要とされています。
自助 | 一人ひとりが自分の身の安全を守るために取り組む防災 |
共助 | 地域や身近にいる人同士が助け合って取り組む防災 |
公助 | 国や地方公共団体などが取り組む防災 |
国や地方公共団体などが行う「公助」に限界があることは、これまでの大規模災害時の対応を見ると明らかなので、災害発生時に自分や家族を守るには「自助」と「共助」の質を高めることが不可欠です。
そして、自助の質を高めることにより、「災害が発生したときに自分や家族を守り、被害を最小限に抑えることができる」、これが防災に取り組む意味でありメリットです。
自助を充実させることで「いざというときに安心と安全を得られる」ことも、防災に取り組むメリットと言えます。
防災講義では、「防災は貯金のようなもの」だと説明しています。
貯金はお金を貯めることで、たくさん貯めると、好きなものを買うことができます。
防災は物(防災グッズ)や知識を貯めることで、たくさん貯めると、いざというときに安全や安心を得ることができます。
どちらも貯めるのに時間がかかり、しんどいこともありますが、得られるものは大きいです。
保険を例に説明したこともあるのですが、受講者の反応がいまいちでした。
災害発生時に発揮される防災の効果
防災の効果がはっきりと現れるのは、被災した後の「気持ち」、「行動」、「快適さ」です。
気持ち
平時から「自分や家族が被災するかもしれない」と思って備えていれば、いざというときに必要以上にパニックにならずに済みます。
防災に取り組んでいても被災直後は混乱しますが、短い時間で我に返って安全を確保するための行動に移りやすいものです。
災害発生時は、判断一つが生死を分けることもあるので、必要以上にパニックにならないことは非常に大切です。
行動
平時から防災に取り組んでいると、被災したときに迷わず行動することができます。
例えば、備えておいた防災セットを持ち出し、決めておいた経路で避難場所へ行き、家族と話し合った方法で連絡を取ったり合流したりすることができます。
平時のうちに被災時の行動を決めていないと、被災直後の切迫した状況で慌てて防災セットを探したり、避難場所を検索したりしなければなりません。
また、家族の安否確認の方法や合流場所を決めていなかった場合、離れた場所にいる家族と合流するのに時間がかかってしまいます。
快適さ
防災セットを備えておけば、防災グッズを使用して被災後のストレスを和らげることができます。
平時と同じ水準とまではいきませんが、少なくとも食べるものや飲むものに困らずに済みます。
例えば、汗ばんだ顔や体をウェットティッシュで拭く、エアーマットと寝袋で床の固さや夜間の冷え込みを気にせず眠る、長蛇の列に並ばず簡易トイレで用を足すといったことが可能です。
災害発生時の必需品であるスマホも、充電器を備えていれば長時間使い続けることが可能です。
また、平時のうちに自宅の安全対策をしておけば、自宅避難ができる程度の被害で済むこともあります。
防災セットの備えや自宅の安全対策をしていなかった場合、支援物資に頼って過ごさざるを得ませんが、希望した物資がタイムリーに入手できるとは限りません。
防災に取り組む方法
防災に取り組む方法は、個人や家庭によって様々でルールは特にありませんが、ある程度の枠があった方が分かりやすい人も多いので、一般的な方法を書いておきます。
災害や備えの知識・情報を得る
災害に備えるには、災害のことを知る必要があります。
ネットで防災について調べたり、ハザードマップを確認したりして、日本で発生する主な災害の種類と傾向、住んでいる地域の危険度(過去の災害発生状況、被害の程度、危険地域、発生しうる災害など)は確認しておきましょう。
実家や夫の単身赴任先など、大切な人が暮らす地域の情報も得ておくことも大切です。
また、災害発生時の基本的な対応や防災セットや備蓄品の選び方など、災害への備えに関する知識も得ておきましょう。
防災に関する知識や情報は膨大なので、最初から全てを理解する必要はありません。
まずは「広く浅く」学び、興味がある分野を掘り進めていくのがおすすめです。
「勢いで防災セットを買ってみた」、「友人の誘いでシェイクアウト(自身の一斉防災訓練)に参加した」というのもありです。
何であれ防災に関わるきっかけがあれば、そこから災害への備えを始めてみてください。
防災意識を高め、実際に防災に取り組んで継続するには、防災に関心を持ち続けることが何よりも大切です。
優先順位をつける
災害への備えは、防災セットや備蓄品を備えることから自宅の安全対策を講じることまで無数にあり、一度に全て取り組むことは不可能です。
また、私たちは住んでいる環境も家族構成も一人ひとり異なり、必要な備えも異なるので、自分や家族の状況を把握して、取り組む防災に優先順位を付けることが大切です。
優先順位をつけるときのポイントは、2つあります。
- 命を守る防災を最優先すること
- 根本的な解決が困難な場合は他の方法を探すこと
命を守る防災を最優先すること
防災では、いざというときに命を守る備えを最優先します。
例えば、防災セットを備える場合、災害直後に身を守るために持ち歩く防災ポーチをまず準備し、次に持ち出し用防災セットを準備して、最後にローリングストックを実践しながら備蓄品を備えます。
根本的な解決が困難な場合は他の方法を探すこと
例えば、親の土地に35年ローンで新築の家を建てたとします。
そこが土砂災害のおそれがある土地だったとしても、建てた後に引っ越すという選択はしにくいでしょう。
この場合、土砂災害の危険性や被害の大きさ、発生の前兆、発生時の避難場所と避難経路などを把握し、いざというときに備えることになります。
日常生活への負担を少なくする
防災は、いざというときのための備えです。
自分や家族の命を守るために大切なことですが、日常生活を犠牲にして防災に取り組むのは本末転倒です。
例えば、高い防災セットをいくつも購入して生活費が底をつき、夫婦げんかになるのは避けたいところです。
防災への取り組みを負担だと感じていると、いつか息切れして取り組みを止めてしまいます。
どうしても時間と手間をかけるところはありますが、できるだけ日常生活への負担を少なくするように工夫しましょう。
備蓄品については、ローリングストック法を実践するのがおすすめです。
ローリングストック法というのは、「普段から少し多めに食材、加工品を買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足していくことで、常に一定量の食料を家に備蓄しておく方法(トクする!防災より引用)」です。
平時に使用する食料品や日用品をローリングストック法で備えておけば、無駄がなく、手間や負担も少なくて済みます。
まとめ
日本という災害大国に住んでいる以上、防災は終わりのない取り組みです。
それなりに時間も手間もかかりますし、お金だってかかります。
そうして日常生活の中で「防災」を少しずつ蓄えておくことで、いざというときに安心や安全を得ることができます。
最初の一歩を踏み出すまでのハードルが高いですが、一度踏み出すと、楽しんで取り組めるようになるのが防災です。
誰かに「防災とは何か」と聞かれたときに、自分や家族にメリットがある取り組みであるというニュアンスで伝えることができれば、正しく、また、楽しんで、災害への備えができている証です。
備えができているということは、その前提として、自分や家族が被災する可能性を想定しているということであり、実際に被災しても落ち着いて適切かつ迅速な行動がとれるはずです。